2023年05月26日

出産費用公的保険適用に関する調査結果

出産費用の公的保険適用・無償化について、子育て世代は何を思う?
経済的な恩恵を受けられることには非常にありがたいと9割超が賛成。
一方、増税に繋がるのではとの懸念も。
政府には、限りある財源の中で、ぜひ有効な子育て支援を進めていただきたい。

4月より、国の保険給付の一つである「出産育児一時金」が42万円から50万円へ引き上げられました。
これは近年の出産費用の上昇に伴い、出産前後の経済的負担の軽減を目的としています。さらに、政府は出産費用の公的保険の適用、自己負担の無償化についても検討を進めています。​
今回の調査では、「出産費用の公的保険適用」について妊産婦を対象に実態調査を行いました。短期間にもかかわらず、1800名を超える回答があり、現役の子育て世代の関心の高さが伺えます。​

※2023年4月27日~同年5月8日の間、全国1804名の妊娠中または産後の女性を対象​
※ハーゼスト株式会社が提供する「Babyプラスアプリ」によるweb調査​

適正だと思う「出産費用の3割自己負担金額」は、10万円未満が84.5%


9割超が出産費用の公的保険適用、自己負担の無償化に賛成


公的保険適用、自己負担の無償化により、子供を増やすことに前向きな方は全体の6割


調査結果の詳細は次の通りです。

出産育児一時金42万円から50万への引き上げについて、9割が肯定的。​
一方、分娩費用値上げにより自己負担金が変わらないとの声も。​

今年4月に実施された出産一時金の42万から50万円への引き上げについて、「とてもよいと思う」「よいと思う」と肯定的と捉えている方は全体の9割。残り1割の方からは、「50万円でも不足する」「分娩費用値上げにより自己負担金額は変わらない」との声も多く寄せられました。​
特に都心部では地方に比べ分娩費用が高い傾向があり、また、病院ごとに出産プランなど料金設定が異なるため50万円では賄えないケースが多いと考えられます。​​

出産育児一時金についてどう感じますか
あまりよいと思わない・全くよいと思わない理由

「個室対応」「無痛分娩」「産後ケアサービス」は追加で費用を支払っても要望する声多い。

出産費用・自己負担の無償化が適用になった場合、追加で費用を支払っても受けたいサービスをヒアリングしたところ、3割は「サービスは不要」と回答ましたが、残り7割は何かしらのサービスを求めていることが分かりました。​
その中でも「個室対応」「無痛分娩」「産後ケアサービス」は、半数が「費用を支払っても受けたい」と回答しています。​
前回の調査においても、病院選びのポイントとして、通院のしやすさや費用以外に、高齢出産が増えたことから母体の体力を考慮し、「無痛分娩の選択」、「産後ケアサービス」が重要視されていることが明らかになっています。​

出産費用(正常分娩)の適正だと思う自己負担金額は10万円以下が8割、​ 10~20万円以下が1割。負担金額は公費負担すべきと9割が回答。​

​出産費用の公的保険適用が実現した場合の、適正な自己負担金額を調査したところ、「10万円以下が84.5%」「10~20万円が12.6%」「20~30万円が1.8%」という結果でした。​
また、自己負担金額は公費(たとえば地方自治体など)で賄うべきか否かの設問では「9割が公費負担すべき」と回答。​
9割の子育て世代の想いは、出産費用は事実上0(ゼロ)の、まさに政府が掲げている「お財布のいらない出産」でることが分かります。
但し、公費負担に否定的な1割の意見にも注視したく、次の設問では「出産費用の公的保険適用」、「自己負担の無償化」についての具体的な意見を聴取しています。​

「出産(正常分娩)費用の公的医療保険の適用」および「自己負担の無償化」​ に対し、95%が肯定的。否定的意見は「財源、産院の維持、出産より産後の教育費等を心配」​

子育て世代の実に95%が、「出産費用の公的保険適用」および「自己負担の無償化」に賛成。​

「あまりよいと思わない」「まったくよいと思わない」を選択した方の自由回答(一部抜粋)

・妊娠、出産、子育て支援などの子どもを産み育てる人たちへの補助の拡充はありがたいし、助かる人も多いかもしれないが、そこにばかりお金をかけられるわけじゃないと思う。他にも課題はたくさんあると思うので。(32歳 公務員)​
・個人病院の経営が難しくなりお産できる施設が集約化されそうだから。(27歳 専業主婦)​
・今の一時金でおおよその出産費用が賄えており、産院毎のサービス(食事内容や個室対応等)提供の幅が狭まるから。(32歳 公務員)​
・お金がかかるのは産んでからなので、子育て支援の方にまわして欲しい。(財源は限りなくあるものではないので有効に使って欲しい)(39歳 医療関係)​
・現在産院をしている医師が自由診療でなければ産院を維持できないという話を聞いたことがあり、もしそういった産院が増えれば安全に出産できる産院が今より減ってしまい安心して出産ができなくなってしまうから。(34歳 公務員)​
・サービスが標準化になったら、施設ごとの特徴が失われそう。 出産費用がかからなくなったとしても、その後の育児にかかる費用は変わらないため、出産費用がかからないからといって出産し、出産を後悔したり生活苦に悩まされる人もでてきそう。(35歳 医療関係)​
・出産するときだけにお金がかかるから子供を産みにくいという訳ではないから。もちろん出費がなくなったりするのはとても嬉しいが、産科の現場に勤める方の気持ちや意見などは分からないし、それよりもこれから先にかかり続ける金銭や保育園活動の方が心配です。(29歳 会社員)​
・医療費を負担しすぎると国の財政を逼迫させ、その結果次の世代に課題が残るのではないかと懸念している(39歳 医療関係)​
・産科が経営維持出来ずなくなる可能性があるため。 産科がないと子供を産む選択が出来にくく、子供を欲しいと思う家族が住居地としてその地域を選択肢から外し、結果的に過疎化にも繋がると思う。(35歳 会社員)​ ​

無痛分娩費用の保険適用は7割が要望、妊婦検診費用の保険適用は9割が要望。​

前述の通り、高齢出産に伴い体力の面より普通分娩ではなく、無痛分娩を選択する女性が増えていることもあり、約7割が無痛分娩の保険適用を求めています。​
また、妊婦検診では、初診は全額実費負担です。また、補助券を受け取り後の検診でも、不足する分は支払いが必要なため、地域にもよりますが妊婦検診費用のみで数万円必要なケースもあります。そのため、妊婦検診での保険適用を求める声は9割超と、殆どの方が要望されていることが分かります。​

出産費用の公的保険適用・無償化により、6割が子供を増やす可能性あり。​ 7割が少子化対策に有効と回答。少子化対策に有益な施策となるか。​​

「出産費用の公的保険適用」および「自己負担の無償化」が実現した場合、「あなたは子供を増やす可能性がありますか?」の問いに対し、あると回答した方は全体で64.6%。なかでも、「可能性がとてもある」と回答した方は31.2%。​
また、「少子化対策に有効か?」の問いに対しては、実に76.5%の方が「有効と思う」と回答。​
今回の調査により、1割の方からは出産費用の保険適用や無償化について否定的な意見もあり、是非少数派の意見についても除外視することなく検討を重ねていただきたいが、本施策の実現により、経済的な心配より産み控えをする世帯への支援として有益な施策となるかもしれません。​​

子育て世代が考える「妊娠・出産」とは…

最後に、子育て世代へ「出産にかかる費用」に関する自由意見を求めたところ、534件の回答をいただきました。​
前述での調査結果の通り、出産費用の公的保険適用・無償化に対しては、「助かる・ありがたい」と肯定的な意見が多くを占めていますが、「出産費用が払えず産めない方よりも、育てていくためのお金、教育資金等を懸念し、2人目、3人目を諦めるのでは」との回答が一定数ありました。​
そのほか、子育て世代は「現状の出産にかかる費用」 に何を感じ何を思うのでしょうか。​
子育て世代からの主な意見は次の通りです。​

主な意見

  • 妊娠・出産にかかる費用の支援は多いに助かる
  • 無痛分娩も保険適用にしてもらえれば選択したい
  • 出産費用の無償化はありがたいが、働きながらでも安心して子育てできる環境への整備、
    父親の育児参加への支援などの育児サポートが必要
  • 出産費用を払えない人よりも、その後の教育費用を心配して産み控えしている人の方が多いのでは?
  • 産婦人科に不利益が生じ、産科の減少に繋がらないようにしてほしい
  • 無償化により、増税になるのは困る
  • せっかく出産育児一時金が50万円に引き上げられたが、出産費用も引き上げられたため負担金額は変わらなかった
  • 妊婦検診が高額となるケースあるため、検診費用の保険適用も検討してほしい
  • 不妊治療の支援を拡充してほしい

「出産費用」に関する自由意見 (n=534 一部回答を抜粋)

・出産費用が病院で異なること、希望する病院では産めないこともあることがあるので、公的補助があるのはありがたい。一方で、技術レベルや体制に差があるのは正直なところなので、そのあたりの一律化と自己負担でも選べるオプションがあるとより安心して産める。産んだ後もお金はかかること、妊娠中の会社の体制も含めて子供を持てるかどうか判断するので、出産費用の補助が増えただけでは、子供をさらに産もうとは思わないが、一人くらいは産もうとはなるかも。(36歳 会社員)​

・出産費用などの金銭的な支援は確かに有り難いが、それよりもワーキングマザーが安心して出産できるよう、希望する保育園や学童などに必ず預けられるようにするなどの公的な体制構築、会社の人事制度改革(女性からみて助かるもの)、男性の積極的な育児参画のほうがはるかに大切だと思う。(39歳 会社員)​

・今まさに妊娠中なので、出産費用は抑えられるほど助かりはしますが、完全無償化というのはやりすぎかとも思います。子供をポンポン授かれる夫婦にばかり恩恵があり、単身者や子供を授かれない夫婦からしたら不公平です。その意味でもある程度の自己負担は必須かと思います。(43歳 会社員)​

・基本の部分を保険で。 それ以外はオプションでつければよい。 最低限保険対応すれば、若い人やお金がない場合の助けと出産に繋がる。 それ以上は甘やかさずに、お金払ってやりたい事をやればいい。 私のような年のいった人より、若い人が子供を産むことを身近に可能なんだと感じられる感覚が必要。(42歳 専業主婦)​

・出産費用が理由で出産しないという話しは私の周りではあまり聞きません。もちろん出産費用は高いので負担が減る分には助かります。少子化については、それよりも、キャリアだったり、産後の保育園問題。出産の適齢期はちょうど仕事でも経験を積んで色々任される時。そこでの出産で離脱。これは悩む人多いのではと思います。また産後の母親と仕事の両立。女性への負担が多すぎる。(42歳 会社員)​

・出産のときの費用を公費で賄えるのはとてもいい反面、10代などで望まない妊娠をしてしまった場合も女の子側が産みたいという気持ちが大きくなりそうで、出産後の経済的な問題に直面しないか心配です。出産だけでなく子育ても一緒に費用を負担してもらえる制度がほしい。帝王切開や無痛分娩などを選ばざるおえない人もいる。どの方法も最低限は負担してもらえるといいと思う。(27歳 公務員)​

・妊婦検診までに出血やその他トラブルでの受診は、1回につい約5千円もかかる。年収300万円代のサラリーマンには負担が大きいです。また、給与の賃金は上昇しないので、晩婚化問題も有りますが、子供を産みたくてもこんな現状で、自分達の生活で精一杯なのに子供なんて望めず、当たり前に少子化は進みます。現場で起きている事をきちんと調査して、少子化対策に生かして頂きたいです。 このアンケートが有効に生かされる事を願っています。(33歳 専業主婦)​

・ハイリスク妊娠の為、中規模の個人産院から大学病院へと変わりましたが、診療費負担の差の大きさに驚いています。赤ちゃんの命に関わることなので、専門的な大学病院での診療代が高額になるのは仕方がないとは思います。しかし、健診に行かない妊婦さんや、経済的に子どもを生めない状況がここにあるのではないかと実感しました。根本的な少子化対策と共に、妊婦健診での課題も見直して頂きたいです。(37歳 教育関係)​

・出産費用より、不妊治療に充てるべき。 産みたいのに産めずに努力しているのにそれが十分に評価されないのは悲しい。(43歳 教育関係)​

・出生率を高めるために「出産」を優遇するだけでなく不妊治療、不育治療にももっと目を向けてほしい。 治療で金銭的にも精神的にも辛いので一人でも産めたら良いと思ってしまう。​(27歳 パート・アルバイト)​

・一時金の額が増えても、あわせて産院の費用がアップしたのでトータルの出費は変わらないです。(34歳 会社員)​

・せっかく出産育児一時金 42万から50万にあがっても、産院が出産育児一時金が上がったタイミングでなんの予告もなく値上げを決定したため実質の負担額が2万円しか減らなかった(29歳会社員)​

・出産費用より圧倒的に教育費が心配。また、むやみな増税に繋がるのならば反対。(32歳 専業主婦)​

・出産費用の負担が減ることで、子どもにお金をよりかけることができ、「お金があればできたのに」というストレス軽減につながると思う。あと、出産費用の補助金申請は悪阻がある中で調べたり、考えたりするのが難しい。もっと手続きを簡単に分かりやすくして欲しい。(38歳 専業主婦)​

・保険適応になると、健康保険、社会保険料や民間の保険が値上がりしたりしないのだろうか。 出産、子育てお金がかかるので補助はありがたいが、もっとサービスや教育を手厚くしたりそこへの補助を行なってほしい。困っている人や孤独な人を取り残さない、社会全体で子育てをしていくような仕組みや制度を充実させていってほしい。(36歳 会社員)​

・出産費用の保険適用化は利用者にとっては良いと思うが、それによって個人でやっている産科がマイナスとなり産科自体の数が少なくなってしまっては本末転倒。産科にもマイナスにならないような施策にして欲しいと思います。(34歳 会社員)​

・出産側の負担が大きすぎるため保険適用または無料化するのが少子化対策に有効と思いますが、産婦人科医院側に不利益が生じることがないことを望みます。(32歳 会社員)​

まとめ

政府は「異次元の少子化対策」として、想定より早いペースで進んでいる少子化に歯止めをかけるべく、若い世代の所得を増やし、育児に対する社会全体の構造や意識の改善、子育て世代への切れ目のない支援などの基本理念を掲げています。​
今回の調査では、出産費用の公的保険適用・無償化の実現は95%が肯定的と捉えており、これらの実現により「6割の方が、子供を増やす可能性あり」と回答。実際に経済的な負担軽減につながる世帯も多くあることより、少子化の一助となるかもしれません。​
一方、否定的な意見からは、限りある財源の中で、出産費用を完全無償化とするよりも、育児支援、子育てしながら働きやすい環境づくり、若い世代への結婚支援などの方が有意義ではないのかといった意見が目立ちました。​
子供を産む産まないの選択は個人の自由ですが、産みたいのに産めないといった方をなくし、1人でも多くの方が「安心して子供を産むことのできる社会」であるべきではないでしょうか。これから結婚し家庭を持つような若い世代も、現役の子育て世代も、不妊治療をしている夫婦にも、社会的な仕組みと十分な支援により、これから生まれ育つ子供たちの未来が明るく輝かしいものになるよう、有意義な施策の実現を願いたいものです。​

調査概要:「出産費用」に関する調査​
調査主体:一般社団法人マザーアンドチャイルド協会​
調査方法:ハーゼスト株式会社が提供する「Babyプラスアプリ」によるweb調査​
調査期間:2023年4月27日~同年5月8日​
回答者数:妊娠中または出産後の女性1804名​