2023年08月28日

NIPT受験者を対象にした妊婦用アプリを用いたweb調査

調査期間:2020年9月14日〜同年11月2日
回答者数:妊娠中または出産後の女性1,198名

Interview

「NIPT受験者を対象にした妊婦用アプリを用いたweb調査」を実施された昭和大学の関沢明彦先生にアンケート調査に関するインタビューを実施しました。

関沢 明彦先生

昭和大学医学部 産婦人科学講座 教授

昭和大学医学部 産婦人科学講座 教授 関沢明彦先生
出生前遺伝学的検査を専門として研究されてきた関沢先生ですが、今回の調査の目的をお教えいただけますでしょうか?
2020年当時、NIPT(新型出生前診断)を実施できる施設には、日本医学会による認定施設(認証施設)と無認定施設の2種類がありました。専門的な診療ができるような体制が整った施設が認定され、その認定施設では検査数などの報告制度がありましたが、無認定施設にはそのような仕組みはありません。
そのため、実際にどれくらいの妊婦さんがどのような検査を無認定施設で受けているのか、実態はよく分かっていませんでした。
本調査はそのような無認定施設における検査実態を明らかにし、適切な検査体制構築につなげていくことを目的に実施されました。
多数あるアプリや調査サイトの中で、今回は、お医者様監修という信頼度の高いBabyプラスアプリを使って調査いただきましたが、いかがでしたか?
Web調査を行う会社は数多くありますが、妊婦さんの声のみを集めることができる会社はほとんどありません。多くの場合、どれほどたくさんの意見を集めたとしても、妊婦さんはその中のごくわずかです。
その点、Babyプラスは妊婦さんに特化したアプリですから、妊婦さんの声だけを効率よく集めることができる点が優れていると考えています。
今回は実際に検査を受けられた方へのアンケート調査ですが、調査結果についてお教えいただけますでしょうか?
調査結果からは、NIPT受検者の半数以上が無認定施設で検査を受けていると推定できました。また無認定施設では3種類のトリソミー以外のさまざまな検査が行われているほか、結果が陰性以外であっても説明がない場合があるなど、検査後の対応に問題のある実態が明らかになりました。

NIPT については出生前検査認証制度等運営委員会が日本医学会内に設置され、「NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針」に沿って施設の認定が進められています。

現在は168の基幹施設、179の連携施設が認定されています(2023年2月2日現在)。認定施設が増加する一方で、無認定施設で受検する妊婦も増えていると言われていますが、実際にどれくらいの妊婦が無認定施設で検査を受けているか、実態は知られていませんでした。そこで、本調査ではNIPTを受検する妊婦がどのような施設でどのような検査を受けているのか、NIPTの実態を調べました。

2020年9月14日〜同年11月2日の間、全国1,198名のNIPT受検経験がある妊娠中または産後の女性へ「出生前遺伝学的検査(NIPT)」について調査を実施しました。

NIPT受検者の半数以上が無認定施設で検査を受検


検査前後の説明は、認定施設の方が時間をかけている。
無認定施設では郵送のみの結果報告が大部分


認定施設を選ぶ理由は信頼性、
無認定施設を選ぶ理由は利便性やコスト面という結果に


NIPTの受検を国や学会が規制することに対しては否定的な傾向


調査結果の詳細は次の通りです。

NIPT受検者の半数以上が無認定施設で受検

NIPTを受検した人のうち、50.9%が無認定施設で検査を受検していました。年齢別に見ると、無認定施設で検査を受けた妊婦は、34歳以下が相対的に多い傾向です。34歳以下の妊婦のうち、約70%が無認定施設で検査を受検していました。
これは日本医学会が2022年に年齢制限を撤廃した新たな指針を取りまとめるまでは、認定施設での受検が35歳以上に限られていたことを反映した結果だと考えられます。

検査対象者の検査受検施設

<認定施設VS無認定施設>

受検者年齢分布

<認定施設VS無認定施設>

また調査では、検査実施数には都道府県による差が大きいことも分かりました。都道府県別の検査実施数は、東京都が圧倒的に多く、ついで神奈川県、大阪府となっています。なお調査時点では、青森県、群馬県、長野県、三重県、大分県、宮崎県の6県はNIPTの認定施設がありませんでした。

NIPTの検査項目は、認定施設では21トリソミーと18トリソミー、13トリソミーについてのみと決まっています。これに対して無認定施設では、3種類の染色体トリソミー以外も検査項目に含まれている施設が多くみられました。項目として多かったのは、性別や性染色体疾患、特定の微小欠失や重複、全ゲノム検査などです。

検査対象疾患

<全体>
<認定施設VS無認定施設>

検査前後の説明は、認定施設の方が時間をかけている。無認定施設では郵送のみの結果報告が大部分

検査前後の説明では、認定施設の方が時間をかけて説明している実態も浮き彫りになりました。

検査前の説明方法は、認定施設では個別の遺伝カウンセリングや個別の口頭説明が多くみられたのに対し、無認定施設では個別の簡単な説明や集団説明、説明文書が渡されるのみといった結果がみられました。また、検査前の説明にかかった時間は、認定施設では30分以上が最も多かったのに対して、無認定施設では75%以上が説明なし~15分未満となっていました。

検査前説明の方法

<全体>
<認定施設VS無認定施設>

検査前説明の所要時間

NIPT検査では98%が陰性になる反面、約2%でそれ以外の結果になります。そのため陰性以外の結果になった場合のカウンセリングなどの対応が非常に重要になるのです。しかしながら、無認定施設では検査を実施した後の対応が十分になされていないケースもありました。

NIPTの検査結果とその後の対応

<NIPTの検査結果>
<結果が陰性以外の女性への医療機関の対応>

例えば検査結果の説明は、認定施設では受検した施設において口頭説明がなされていて、郵送やFAXなどによる結果説明は行われていませんでした。これに対して無認定施設では、大部分が郵送やFAXによる結果説明となっていました。

結果の説明方法

<全体>
<陰性以外VS陰性>
<認定施設VS無認定施設>

結果説明の所要時間は、結果に関係なく全体でみると認定施設では15分未満が最多となっていました。これに対して無認定施設は説明なしが最多となっていました。さらには、結果が陰性以外であっても説明がないケースもみられました。

結果の説明の所要時間

<全体>
<結果が陰性>
<認定施設VS無認定施設>

認定施設を選ぶ理由は信頼性、無認定施設を選ぶ理由は利便性やコスト面という結果に

認定施設を選択した理由として多くみられたのは「認定施設であること」「かかりつけ医から紹介されたこと」「検査前に遺伝カウンセリングがあること」でした。一方で無認定施設を選択した理由として多くみられたのは「受診当日に検査を受けられること」「3つの染色体疾患以外の検査ができること」「検査費用が安いこと」でした。認定施設を選択する妊婦は信頼性や安心感、無認定施設を選択する妊婦は利便性やコストパフォーマンスなどを重視していることがうかがえます。

受検施設を決めた要因

受検施設を決めた要因

陰性以外の結果が得られたときに感じたことについて、「結果をどのように判断してよいかわからず悩んだ」「確定検査の結果が出るまでの期間の不安が強かった」といった声が、無認定施設では認定施設と比較して多くあがっていました。

また、「検査結果に対するその後の対応を行うべき」と感じている人も無認定施設のほうが認定施設よりも多く、無認定施設における説明が簡易的であることに対して、受検した人が不安感や不満を感じている様子がうかがえました。

NIPTの受検を国や学会が規制することに対しては否定的な傾向

調査ではNIPTと情報提供などに関する意見も調べています。それによると、NIPTの受検については、妊婦の多くが「もっと身近で手軽に受けられるようになってほしい」などと考える傾向にあることが明らかとなりました。NIPTの受検を国や学会が一定の制限を設けることに対しては、制限が不要と考える人の方が多いことも分かりました。

一方で「遺伝カウンセリングが必要である」との回答は全体で70%と高く、受検者の多くはカウンセリングの重要性を理解していることが明らかになりました。事前の説明や検査結果に対する丁寧なフォローアップを行ったうえで、身近で手軽に検査を受けられる環境が望まれています。

まとめ

今回の調査結果から、半数以上の妊婦が無認定施設で検査を受けていることが明らかになりました。その理由は、検査対象となる疾患が多いことや制約が少ないこと、利便性が高いことなどが指摘されています。特に無認定施設を選ぶ人は、気軽に検査を受けられることを望む傾向があるため、認定施設を増やしても無認定施設での受検者は減らないことが考えられます。

また、検査の実施について国や学会が規制する事に対しては、否定的な意見を持つ人が肯定的な意見を持つ人よりも多いことも分かりました。多くの人は遺伝カウンセリングの重要性を理解しており、正確な情報提供の下、身近な施設で相談できる体制が整備されることを望んでいると言えるでしょう。



調査概要:「出生前遺伝学的検査(NIPT)」に関する調査
調査主体:公益社団法人 日本産科婦人科学会
調査方法:ハーゼスト株式会社が提供する「Babyプラスアプリ」によるWeb調査
調査期間:2020年9月14日〜同年11月2日
回答者数:妊娠中または出産後の女性1,198名

この調査結果の詳細は、以下の2論文に掲載されております。

NIPTの現状
関沢 明彦(昭和大学 医学部産婦人科学講座)
日本周産期・新生児医学会雑誌(1348-964X)58巻4号 Page780-783(2023.04)

NIPTについての情報提供
関沢 明彦(昭和大学 医学部産婦人科学講座), 小出 馨子
日本周産期・新生児医学会雑誌(1348-964X)58巻4号 Page784-787(2023.04)