2023年09月29日

妊婦の新型コロナウイルスワクチン接種に関するweb調査

調査期間:2021年10月5日〜同年11月22日
回答者数:妊娠中の女性6,576名

Interview

「妊婦の新型コロナウイルスワクチン接種に関するweb調査」を実施された、日本大学の相澤志保子先生にアンケート調査に関するインタビューを実施しました。

相澤 志保子先生

日本大学医学部 病態病理学系微生物学分野

日本大学医学部 病態病理学系微生物学分野 相澤志保子先生
生殖免疫学、感染免疫学を専門とされてきた相澤先生ですが、今回の調査の目的をお教えいただけますでしょうか?
2020年にパンデミックを宣言された新型コロナウイルス感染症に対し、2021年からワクチンの接種が開始されるようになりました。同ワクチンは全くの新しいワクチンであるため、妊婦さんへの接種は、安全性、特に副反応について心配する声が多く聞かれました。そこで、わが国の妊婦さんの同ワクチンの接種状況や副反応を調査することを目的に、アンケートを行うことにしました。
多数あるアプリや調査サイトの中で、今回は、お医者様監修という信頼度の高いBabyプラスアプリを使って調査いただきましたが、いかがでしたか?
Babyプラスアプリは妊婦さんが実際に使用しており、調査対象者として想定していた人との親和性が高かったという点で、妊婦さんに特化したアンケートが出来るという点では非常によかったと思います。
今回は実際にワクチン接種を受けられた方へのアンケート調査ですが、調査結果についてお教えいただけますでしょうか?
妊婦さんにおいても2回のワクチン接種を終了している割合は73.6%と同時期の日本国内の接種割合(79.6%)とほぼ同等とであることが分かりました。
接種後の副反応の種類や頻度は諸外国からの既報と同程度で、妊婦さんが最も懸念していると思われた妊娠経過に与える産科的症状もワクチン接種により増えたというデータはありませんでした。
当時の状況でこれらのデータを取得し、妊婦さんへのワクチン接種を推奨することができたことは大きく意義のあるものだと考えています。

2020年3⽉にパンデミックを宣⾔された新型コロナウイルス感染症は、ウイルスの変異株の出現に伴って、流⾏の波を繰り返しています。

特に、デルタ株が猛威を振るった2021年の8~9⽉には⽇本国内でも1⽇の感染者数が2万⼈を越え、妊婦の感染例も増加しました。 

⼀⽅で、2021年3⽉ごろから、新型コロナウイルスワクチンの医療従事者への接種が開始され、順次⼀般の⼈へ接種されるようになりました。先⾏して妊婦へのワクチン接種が⾏われた諸外国からの報告では、副反応の増強や妊娠合併症の増加、胎児・新⽣児への影響はみられなかったと報告されました。⼀⽅で、妊娠中の新型コロナウイルス感染は特に妊娠後期で重症化リスクが⾼まることが報告され、我が国でも妊婦への新型コロナウイルスワクチン接種が進められました。 

しかし、新型コロナウイルスワクチンは全くの新しいワクチンであるため、妊婦への接種においては、安全性、特に副反応について⼼配する声が多く聞かれました。そこで、厚⽣労働⾏政推進調査事業費補助⾦「新型コロナウイルス感染症流⾏下における妊婦に対する適切な⽀援提供体制構築のための研究(⼭⽥班)」・⽇本産科婦⼈科学会周産期委員会「周産期における感染に関する⼩委員会」は我が国の妊婦における新型コロナウイルスワクチンの接種状況や副反応を調査することを⽬的に、Web アンケートを行いました。 

調査期間は2021年10⽉5⽇〜11⽉22⽇、6,576 ⼈の妊婦を対象に新型コロナウイルスワクチン接種に関する調査を実施しました。 

調査結果のサマリー

妊婦においても、2回のワクチン接種を終了している割合は

同時期の⽇本国内の接種割合とほぼ同等


ワクチン接種率は、年齢が高く
職業については専業主婦に⽐較して公務員、医療関係者など、
時期については妊娠中期・後期の妊婦のワクチン接種率が⾼い


妊婦における副反応の出現は、
諸外国の既報の妊婦や⾮妊婦の同じ年代の⼥性とほぼ同等


副反応の産科的症状としては、腹緊(お腹の張り)や子宮の痛みが出現したが、
重⼤な症状が⾒られたのは 1回⽬・2 回⽬接種後ともに 1%以下


調査結果の詳細は次の通りです。

妊婦においても、2回のワクチン接種を終了している割合は同時期の⽇本国内の接種割合とほぼ同等

Web アンケート調査に参加した妊婦は6,576⼈でこのうち、ワクチンを1回以上接種済みの妊婦が5,397⼈(82.1%)、2回接種済みが4,840⼈(73.6%)、未接種が1,179⼈ (17.9%)でした。 

調査終了時点の2021年11⽉23 ⽇における国内で必要回数のワクチンを接種完了した⼈⼝の割合は 79.6%でした。

1回接種済みの妊婦のうち 3,955⼈(73.3%)がファイザー製、1,048 ⼈(19.4%)がモデルナ製のワクチンを接種しました(394⼈はどちらのワクチンか不明)。 2回接種済みの妊婦のうち3,566 ⼈(73.7%)がファイザー製、1,003⼈(20.7%)がモデルナ製のワクチンを接種しました(271 ⼈はどちらのワクチンか不明)。 

調査により、妊婦においても、2回のワクチン接種を終了している割合は73.6%と同時期の⽇本国内の接種割合(79.6%)とほぼ同等と考えられました。また、未接種の妊婦の約半数に接種予定や接種(分娩後を含む)の希望があることもわかりました。デルタ株による第5波では妊婦の感染例が急増し、新型コロナウイルスに罹患した妊婦が⾃宅で早産し新⽣児が死亡した例や、新型コロナウイルス罹患妊婦の周産期施設での受け⼊れ困難などが報道されたことにより、妊婦⾃⾝のワクチン接種への意識が⾼まったためと考えられます。

妊婦におけるワクチン接種の割合

1回接種した方のワクチンの種類
2回接種した方のワクチンの種類

ワクチン接種率は、年齢が高く、職業については専業主婦に⽐較して公務員、医療関係者など、時期については妊娠中期・後期の妊婦のワクチン接種率が⾼い 

ワクチン接種に関連した因⼦について単変量解析と多変量解析した結果によると、20歳以下の妊婦に⽐べて、年齢が⾼い妊婦では接種率が⾼いことがわかりました。 

ワクチン接種に関連する因子

職業については、専業主婦に⽐較して公務員、医療関係者で割合が⾼く、⾃営業では低いこともわかりました。これについては、医療関係者を含め職場での接種が、接種の促進にはたらいていると考えられます。 

また、妊娠初期に⽐べると、妊娠中期、後期の妊婦のワクチン接種率が⾼いこともわかりました。妊娠週数でみると、 16 週以降の妊婦では 16 週未満の妊婦に⽐べて接種済みの割合が⾼く、これについては⽇本産科婦⼈科学会、⽇本産婦⼈科医会、⽇本産婦⼈科感染症学会では当初は妊娠12週以降の接種を推奨しましたが、後に妊娠のどの期間でも接種可としたことが影響していると考えられます。今回の調査期間は、接種期間について改めた後であったため、妊娠初期の接種を避けて中期以降に接種した妊婦が多かった可能性があります。 

妊婦における副反応の出現は諸外国の既報の妊婦や⾮妊婦の同じ年代の⼥性とほぼ同等

接種部位の疼痛は1回⽬接種後96.84%、2 回⽬接種後92.61%と⾼頻度に⾒られました。⼀⽅、発熱、倦怠感・疲労感などの全⾝的な反応、あるいは頭痛、消化器症状(嘔気・嘔吐、下痢、腹痛)、関節痛などの接種部外の副反応の出現は1回⽬よりも 2回⽬で上昇しました。しかし、妊婦における副反応の出現は、諸外国で既報の妊婦や⾮妊婦の同じ年代の⼥性とほぼ同等でした。 

副反応の産科的症状としては、腹緊(お腹の張り)や子宮の痛みが出現したが、重⼤な症状が⾒られたのは 1 回⽬・2 回⽬接種後ともに 1%以下

産科的症状としては、1 回⽬の接種後 1.65%、2 回⽬の接種後2.98%の妊婦に腹緊(お腹の張り)が⾒られました。2回⽬の接種後に1.06%の妊婦に⼦宮の痛みが出現しました。しかし、出⾎、胎動減少、浮腫、⾎圧上昇、破⽔のような重⼤な症状が⾒られたのは 1 回⽬接種後、2 回⽬接種後ともに 1%以下でした。 

これらの症状は接種を受けていない妊婦でも⼀定の頻度で出現するため、予防接種がこれらの症状にどの程度影響していたのかは不明です。ワクチンを接種された妊婦は定期的な妊婦健診を受け、接種後に何らかの症状を認めた場合にはすぐに産婦⼈科の主治医に連絡し、受診できるようにする必要があります。 

まとめ

新型コロナウイルスの流⾏は感染者の増減を繰り返しながら続いています。ワクチンの副反応はワクチンの安全性に深く関わり、またワクチン接種を忌避する動機となりうるため、⼤規模な調査によって実態を把握することが重要です。本研究により、2 回⽬までの新型コロナウイルスワクチンの妊婦における接種の実態と副反応、産科的症状の実態が明らかになりました。今後、新型コロナウイルスのみならず、新たな新興感染症の流行が発生した場合、同様の調査を行い妊婦のワクチン接種について検討していく可能性があります。

調査概要:妊婦の新型コロナウイルスワクチンに接種に関するWEBアンケート
調査主体:厚⽣労働⾏政推進調査事業費補助⾦「新型コロナウイルス感染症流⾏下における妊婦に対する適切な⽀援提供体制構築のための研究(⼭⽥班)」・⽇本産科婦⼈科学会周産期委員会「周産期における感染に関する⼩委員会」
調査方法:ハーゼスト株式会社が提供する「Babyプラスアプリ」によるWeb調査
調査期間:2021年10⽉5⽇〜11⽉22⽇
回答者数:妊娠中の女性6,576⼈

この調査結果の詳細は、以下の論文に掲載されております。

Komine-Aizawa S, Haruyama Y, Deguchi M, Hayakawa S, Kawana K, Kobashi G, Miyagi E, Yamada H, Sugiyama T. The vaccination status and adverse effects of COVID-19 vaccine among pregnant women in Japan in 2021. J Obstet Gynaecol Res. 2022 Jul;48(7):1561-1569.
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Komine-Aizawa S, Yamada N, Haruyama Y, Deguchi M, Fukuda M, Kawana K, Kobashi G, Miyagi E, Yamada H, Sugiyama T, Hayakawa S. The Factors Influencing Pregnant Women’s Selection of Media Sources to Obtain Information on COVID-19 in Japan in 2021. Vaccines (Basel). 2023 Apr 6;11(4):805.
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